▼日本料理長 脇宮盛久氏(熊本ホテルキャッスル)

今年の4月24日以来となる、脇宮盛久料理長(熊本ホテルキャッスル九曜杏/細川)の特別会席料理を取材することができた。
勿論、見所は全てではあるが、特に、最初に出される「硯箱」に注目した。これぞ日本料理がアーティスティックだと言われる所以である。以前、ご本人が「お祝い事などに、パッと花が咲くように飾り付けをするのが好きと言うか、得意と言うか!」とニコニコと語っていた通りである。
目の前にサーブされて、箸を抱えることなく、暫くの間眺めてしまうほど、「和」の小宇宙を覗き込んでいる気持ちとなり、溜息の後に、感動が脳内に充満するのである。そこで最初に目に留まったのは、細長い松葉が貫通した銀杏と零余子。そして、赤のアクセントである海老菊花ずしに唸ってしまう。
更に、黄のアクセントとして姫慈姑赤土揚げが目が刺さった。銀鱈もあり、この会席料理全体にどれだけの種類の魚があるのか、献立を見直したくらいに、ワクワクする。硯箱は、漆黒の長方形。箱の底には積雪のイメージなのか真っ白な米粒が敷き詰められ、その上に枯朴葉が横たわっている。半紙が横に添えてあり、細長い松葉が「かな書道」の筆の軌跡を表現しているようにも見え、立体空間の「美」を感じた。
各々の料理の感想を述べるには枚挙に遑がないので、今回は、食事途中で気付いたことを少々書き綴ろうかと。それは、「蓋物」の器に焼き込まれている「雪月花」という文字である。「雪月花」とは、唐の白居易の詩に繋がるものだ。その詩に「雪月花の時 最も君を憶う」という一節から引用されたのだろうと。
「雪月花の時 最も君を憶う」とは、「雪が降り(冬)、月が照り(秋)、花が咲くとき(春)の一年を通じて、誰よりも君のことを憶い出す。」というのだが、これを「恋心」に置き換えれば、ブライダルや金婚式などの祝い事において、最高にオシャレな「隠れ演出」であると受け止めた次第。
黒服が、この「蓋物」をサーブする時に、「料理長より月を正面に置きなさいとの指示がございました!」と。その黒服は随分前からの知り合いなので、何でも筆者に話してくれるが、言われるまま器を覗くと、蓋には確かに「雪月花」という文字がある。また、下の器にも同じく「雪月花」とあった。
なるほど、月を正面に置かれた「蓋物」。蓋を開ける瞬間が何とも言えず、ドキドキしてしまう。蛇足ながら、筆者は会席料理などは、出来る限り献立を見ずに食すことが多い。それは、蓋物で隠されたものが飛び出す瞬間がすこぶる楽しみでもあり、献立と自分の視覚や味覚、嗅覚と比較するのが面白いからである。
同料理長の作品に接するようになり、何年経つのだろうか。50代にて黄綬褒章や現代の名工を受章するほどの腕前の同料理長との出会いに感謝するばかりである。また、私的なことで申し訳ないが、66歳と言う若さで他界した母へ厳しく食事制限をしたことを、とても後悔している。語弊はあるが、そんなに早く旅立つのならば、このような会席料理を腹一杯食べさせておけば良かったと・・・。
<特別会席料理 献立>
◎硯 箱 枯朴葉盛り
銀鱈味噌柚庵焼き 海老菊花ずし 鰤サラダ焼き 姫慈姑赤土揚げ 栗金団柿見立て 帆立べーコン乾酪焼き 銀杏と零余子松葉刺し
◎吸物替り 胡麻豆腐茶碗蒸し
松茸 さいころ餅 海胆 山葵 銀餡
◎造 り みやび鯛焼霜造り
鮪五六造り 間八炙り 繊野菜 剣妻いろいろ
◎蓋 物
蕪白煮 海老黄身煮 大黒湿地 木の葉南瓜 紅葉入参 束ね水菜 柚子餡
◎揚 物 名残り無花果煎り出汁
鮭エリンギ巻 獅子頭 紅葉卸し
◎酢の物 鯵滑子とろろかけ
篠酢取り茗荷 切胡麻 かもじ葱 大葉 割りポン
◎食 事 穴子蒸籠蒸し
南関揚げと豆腐の赤出汁 あおさのり 山椒 香の物 胡瓜浅漬け 紫若布 沢庵
◎デザート 柚子ムース
鐵笠柚子 ョーグルトクリーム ミント
熊本ホテルキャッスル九曜杏
日本料理長 脇 宮 盛 久
▼硯 箱


▼吸物替り

▼造 り

▼蓋 物


▼揚 物

▼酢の物

▼食 事

▼デザート

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