
久しぶりに足を運んだのは「珈琲アロー」(昭和39年11月創業/店主・八井巌さん)。本日は、先見塾写真倶楽部の取材を兼ねて、淀川司朗、奥野心介、田上貴士の三塾生と共に、珈琲を味わいながら八井さんの話に耳を傾けた。
筆者は同店に三十年以上通っているが、若手の塾生たちは琥珀色の珈琲に驚いた様子であった。今まで体験したことのない、新鮮かつ深みのある味わいに感嘆し、皆そろって二杯ずつ(筆者は三杯)をおかわりしていた。
八井さんは現在77〜78歳と思われるが、とても「老人」の枠に収まる人物ではない。一般の同世代に比べて、元気と夢を与えるような独自のライフスタイルを貫いている。一日に20〜30杯の珈琲を飲みながら立ち仕事を続け、午前11時から深夜まで休むことなく働くという。睡眠は短時間で済ませ、食事も大量に摂ることはないそうだ。
筆者としては、機会があれば「八井巌のライフスタイル」を書籍化したいと考えている。新聞社時代の若造だった筆者を、いつも温かい眼差しで見守ってくれた八井さん。その思いを込めて、ここ数年執筆してきた小冊子「如水シリーズ」の第5弾としてまとめられればと願っている。
今日、初めて耳にした話もあった。店内の腰壁部分には、昭和5年に熊本市唐人町の歩道に敷かれていた高級素材が使われているというのだ。これは昭和28年の熊本市大水害「6.26」で流され、所有権が放棄されたものを、あるレストランが床材として再利用し、そのレストランが閉店する際に八井さんが譲り受け、現在まで店の素材として活用している。実に80年以上の歴史を持つ由緒ある素材である。
かつては珈琲嫌いで知られた三島由紀夫も、ここを訪れて喜んで口にしたという(自決する二年前のことと伝わる)。「珈琲アロー」の琥珀色の一杯は、まさに魔法のような味わいである。
ぜひ一度、体験していただきたい。


【ディー・アンド・エルリサーチ株式会社公式サイト】 http://www.dandl.co.jp/dandl/

1. 山本 博之