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随分昔の話・・・
宮崎県延岡市から南へ下った日向市近くに、魚の養殖場があり、そのイカダから魚が釣れると聞き、足を運んだのだった。餌はサバの切り身。長期冷凍保存している餌らしく、段々と溶けてくると、手はサバの脂でベトベト。そして、相当臭い。
数百メートル沖にあるイカダのところまで漁船に乗り、イカダに渡してもらった。イカダの周囲はデッカイ網籠で囲まれ、その網籠と網籠の隙間に竿を置き、十数メートル先を狙っての投げ釣りとなった。
養殖場なので、中に入っている養殖魚用の餌が海へ落ちて、その周辺に生息する大型のクロダイ(チヌ)などが入れ食いだと言う。特に、外洋が嵐となり、その嵐が収まる頃が、入れ食いと聞いたので、「今日は、釣れるぞ!」と気合が入った。
しかし、1時間ほど経っても、全く当たりもなし。掌はサバの脂でテカテカと光り、昼ごはんのおにぎりを手に取ることさえできぬ状態。少々、イライラしてきた時に、私の竿がゴトン♪と音がして、倒れるほど勢いの引きがあった。
「これは、でかいぞ!」と、頭の中は2kg超えの大型チヌの顔が浮かんだのである。リールは、スウェーデン製のアブマティックという高級リールを使っているが、グラスファイバーの竿は弓のように曲がり、道糸がどんどん海中へ引っ張られる。
確かに大きな魚は掛かっているけれども、どうも、引き方がおかしい。真下に向かって引かれず、途中から、やや斜めに道糸が引かれるのである。引きが止んだので、リールをガンガン巻いて行く。しかし、急に、ぐっと強い力でそれが止められる。道糸を緩めると、又、ジージーと引っ張られる。摩訶不思議な現象である。
見えざる呑舟の魚と闘うこと30分。正直、腕も指も背中も痛い。かなりの大物だが、全く姿が見えないのである。丁度、お昼時となったのか、岸壁から漁船がこちらへ向かって来る。お茶の差し入れだろうか!?
先ほど、イカダに渡してくれた漁師さんがやって来た。「おおお、引いてますね!かなりの大物!?」と笑って近づいて来た。30分以上もこちらへ魚を引き揚げることができないと伝えると、その漁師さんが「ちょっと、竿を貸してもらえますかな?」と。
漁師さんは、竿を両足に挟み込んで、竿の先から道糸をたぐり始めた。「あははは、わかった!お客さん。掛かっているのは大物のチヌじゃなくて、私が養殖しているハマチですよ!」と苦笑い。
結局、その日は1匹も釣れずして帰ることになった。岸壁へ戻り、車に乗ろうとしていると、再び、先程の漁師さんがやって来て、「お客さん、ほら、これ1本持って帰ってよ!」と。右手に大きなハマチを持って来てくれたのだった。
まあ、幻の大型チヌと思い込んで格闘したのが、網の中の養殖ハマチとなると、正直、恥ずかしくて、恥ずかしくて、たまらなかった。しかし、そのハマチは頬が落ちるほど、旨かった。
「ご馳走様でした!」
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